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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

03 第三分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,353 字 · 371 页

青空文庫

彼の言が終っても、まだ一座は寂としていた。不平不満の漲っている気ぶりではない。平常、無考えに暮していた人々も、何かふかく魂を打たれたのである。

「異存ござらぬ」

松原内匠が口を切ったのをきっかけに、続いて、また続いて、

「異存なし」

「てまえも」

「この方も」

初めて、一堂の声が一つに和した。

やるからには生命を的にやろうと、野の精猛はみな眉を昂げていう、

木を伐る斧のひびき。

その木を木曾川の淵へ押し落す旺んなる水しぶき。筏を組む。筏を突き流す。

流れる筏に沿ってずっと下流に来ると、北と西から揖斐川と藪川の水も合して、そこに水脈縦横のだだッ広い洲が見渡される。濃尾両国の州界である。

洲股だった。墨股とも書く。

「十訓抄」に、

唐には、蜀江とて、錦を洗ふ所と、詩歌にも作るところあり。日本のすのまたなどのやうに広く、いかめしう人も通はぬ大川なり。

などとあるのを見ても、この辺りの原始的な光景はおよそ想像がつこう。

前に、佐久間、柴田などが、みな同じ轍をふんで失敗を繰り返した築城の地は、尾張寄りのそこの一角だった。

「ばかなムダ骨。石船で大海でも埋まると心得てやがる」