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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

私は下宿に昨夜間代を払わなかった事を何だかキセキのように考えている。お天陽様相手に商売をしているお父さん達の事を考えると、この三十円ばかりの月給も、おろそかにはつかえない。途中一升一円の米を二升買った。外に朝日を五つ求める。

干しうどんの屑を五十銭買った。母達がどんなに喜んでくれるだろうと思うなり。じりじりした暑さの中に、日傘のない私は長い青年の影をふんで歩いた。

「よくもこんなに焼けたもんですね。」

私は二升の米を背負って歩くので、はつか鼠くさい体臭がムンムンして厭な気持ちだった。

「すいとんでも食べましょうか。」

「私おそくなるから止しますわ。」

青年は長い事立ち止って汗をふいていたが、洋傘をくるくるまわすとそれを私に突き出して云った。

「これで五十銭貸して下さいませんか。」

私はお伽話的なこの青年の行動に好ましい微笑を送った。そして気持ちよく桃色の五十銭札を二枚出して青年の手にのせてやった。

「貴方はお腹がすいてたんですね……」

「ハッハッ……」青年はそうだと云ってほがらかに哄笑していた。

「地震って素敵だな!」

十二社までおくってあげると云う青年を無理に断って、私は一人で電車道を歩いた。