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しんぱん ほうろうき
新版 放浪記
林 芙美子
「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页
下宿を出る必要がある。夜逃げをするには、逃げこむさきを考えねばならぬ。
寝ころんで、メイ・フラワア号を読む。破船の酒場が馬鹿に気に入った。
(十月×日)
詩人は共喰いの共産党だ。持ってるものは平等につかう。借金もそれ相当なもの。手近な目的はただ食べる事に追われるばっかり。人命終熄の一歩手前でうろうろしているばかりなり。天才は一人もいない。自分だけが天才と思っているからよ。それ故、私たちはダダイスト。只何となく感じやすく、激しやすく、信念を口にしやすい。何もないくせに、まずここんところから出発してゆくより仕方がない。
風が吹くので、いろいろな男のことを考える。誰のところに逃げこんで行ったらいいのかと考える。だけど考える事は何もならない。勇気だけだ。何しろ、相手を驚かせる戦術なのだからはずかしい。またマンドリンがきこえて来る。籠の鳥の方がよっぽど羨ましい。ああ狂人になりそうだ。
こんなに童話を書き、講談を書いても一銭にもならないなんて。インキだって金がかかるのよ。
昼から風の中を仕事さがしに歩く。
何もない。人があまっている。美人はざくざく。只若いだけではどうにもならない。