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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

検査が済んだら、さきの事を考えるつもりだ」

汚ない池の水の上に、放った玉子のからがきらきら反射している。別に話もない。物憂そうな楽隊の音がしている。石道は昨日の雪どけでべとついている。寒い。カンノン様を拝んで仲店へ出る。ヨシツネさんがふっと小さい声で、

「俺のとこへ来ないか?」

と、云った。

「何処?」

「松葉町に、おふくろと二階借りしてるンだよ。おふくろはよその家へ手伝いに出掛けていまいない」

私はヨシツネさんがあんまり若いので行く気がしない。子供のくせにとおかしくてたまらない。

「どうだ?」と訊かれて、私は、「いやだわ」と云った。ヨシツネさんはまた歩き出す。私も歩く。只、寒いのでやりきれない。歩いているのは平気だけれど、私は恋をするなら、もう、心の重たくなるような男がいい。ヨシツネさんの二階借りに行く気はさらさらないのだ。

仲店で、ヨシツネさんはつまみ細工の小さい簪を一つ買ってくれた。一足さきに私は店へかえる。

まだ、通いの人達は来ていない。小さい簪が馬鹿に美しい。澄さんの鏡をかりて髪に差してみる。変りばえもしない顔だちだけれども、首の白いのが妙に哀れに思える。