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しんぱん ほうろうき

新版 放浪記

林 芙美子

「女人藝術」1928(昭和3)年10月号~1930(昭和5)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 247,330 字 · 497 页

青空文庫

平民の顔よりも立派なのかな。ゆっくり歩いてカフエーライオンの前へ行く。ふっと見ると、往来ばたの天幕小屋に、広告受付所、都新聞と云うビラがさがって、そのそばに、小さく広告受付係の婦人募集と出ている。天幕の中には、卓子が一つに椅子が一つ。そばへ寄って行くと、中年の男のひとが、「広告ですか?」と云う。受付係に雇われたいのだと云うと、履歴書を出しなさいと云うので、履歴書の紙を買う金がないのだと云うと、その男のひとは、吃驚した顔で、「じゃア、これへ簡単に書いて下さい。明日から来てみて下さい」と親切に云ってくれた。ざらざらの用紙に鉛筆で履歴を書いて渡す。

この辺はカフエーの女給募集の広告が多いのだそうだ。皇族がお通りだと云うので街は水を打ったように森閑となる。どの人もうつむいて動かない。巡査のサアベルが鳴る。

人々の列の向うをざわざわと自動車が通る。自動車の中の女の顔が面のように白い。ただそれだけの印象。さあっと民衆は息を吹きかえして歩きはじめる。ほっとする。

明日から来てごらんと云われて、急に私は元気になった。日給で八十銭だそうだけれども、私には過分な金だ。