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しんさいゆうき
新西遊記
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页
法皇の場合といえども、違法はゆるされないのである。
大修験師を先頭に十六人の修咒者が入ってくると、あるだけの窓をみな開けはなしてしまった。せっかく祈りだしても、厄鬼が逃げて行く道をつくっておかなければなんにもならないのである。修咒者は床に坐りこんで大きな円陣をつくり、凛烈たる寒風の吹きこむのにまかせ、振鈴や太鼓の伴奏で咒文の合唱がはてしもなくつづく。法皇は濛々たる線香の煙の氷のような冷たい夜風を吸いこんで、とめどもなく咳きこむ。法皇にとりついている羅苦叉鬼と鳩槃陀鬼が、祈りの力に抵抗して最後のあがきをやっているのである。修咒者はここぞとばかり太鼓を鳴らす。そういう無情な行を夜明けまでやる。法皇は呼吸痙攣をおこし、酸素欠乏で失神してしまう。大修験師は厄鬼を祓ったといって、法皇を医者の手にわたす。それからいよいよ治療にとりかかる。
侍医長が十人ばかり医官を連れて入ってくる。まず腕から一ヴァース(約一合五勺)の瀉血をし、肩に傷をつくって吸いガラスでほぼ同量の血を絞りとる。法皇の頭を剃ってユーカリの油に芥子とアラビヤゴムを混ぜた発泡膏を貼り、馬銭子(マチン)の種と曼陀羅(チョウセンアサガオ)の葉を煮だした熱湯で足を罨法する。