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しんさいゆうき
新西遊記
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页
異邦伝道報告書で明るみだしたとはいえ、それらは人情風俗のほのかな瞥見でしかないから、地理学上の知識を得ようと思うなら、西蔵へ入って自分の手でヴェールを剥ぐしかない。それで、一八一一年(文化八年)のマイエングを最初に、英、仏、露、洪、米、瑞の探検家や地理学者が西蔵の堅固な障壁に挑戦しだした。
印度からラッサへ入るには、ダージリンからヤートゥンを経由する公道のほかに、桃渓へ迂回する傍道と、カンチェンジュンガの西の鞍部、二万三千尺のユングリングリラ越えをして西から入る間道がある。印度からの入蔵を避けようとすれば、西康、青海、トルキスタン方面、ほかに怒江の上流の西寧を経由する方法もあるが、西蔵内部の交通路は、どんな間道を縫って入ってきても、上手な将棋指しが一つの駒であらゆる敵の進路をおさえてしまうように、いつかは公道を通らずにはすまぬ抜目のない設計になっているので、結局、外西蔵のどこかの道関で食いとめられ、国法を犯し、仏法相応刹土を洋夷の靴で穢した大罪によって、五体投地稽首作礼という苛酷な刑に処せられる。西蔵馬に乗った押送使と四人の警兵が附添い、大地に平伏して摩※(ラマ教の真言)をとなえさせ、何十里あろうとおかまいなく、西康なり青海なり、潜入してきた国境まで匍匐させる。