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しんさいゆうき

新西遊記

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页

青空文庫

清国人に扮装して入ってきたものは、すべてここで最期を遂げる。つぎに第四関でもう一度入府の請願をし、仮照を返してほんものの護照を受け、府関査察のいる第五関で通関税と入府税をおさめ、護照に入府許可の査証を請托する。そこから第三関へ戻って、第三関、第四関、第五関と順々に関長の副印をもらい、それでやっと府内へ入るのである。

文化八年のマイエングから明治廿九年のスウェン・ヘディンまでの探検家のうち、ラッサの潜入に成功したのは、フランスの宣教師ユックとガベェの組、サラット・チャンドラというブータン系印度人の西蔵語学者だけで、あとはみな西蔵の辺外諸部で不幸な終りをとげた。ブルジェヴァルスキー将軍などは、十五年にわたって、北と東から四回も潜入を企図したが、とうとう目的を達することができず、ボンヴァロは、ラッサを距る百哩ばかりのテングリ海のそばで、リットルデール夫妻はラッサを指呼の間に望む、あとわずか五十哩というところまで迫りながら、いずれもラマの兵僧に発見されてしまった。

麻の衣に網代笠、風呂敷包を腰につけ、脚絆に草鞋という、頭陀行に出る托鉢僧のような恰好で山口智海が日本を出発した、明治卅年までの、これが西蔵探検史の概略だが、智海はそういう事情を、なにひとつご存知なかった。