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しんさいゆうき

新西遊記

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页

青空文庫

十日の法要に連り、知合いになった巡礼たちにたずねてみると、メンダンという峠に巡礼だけが通る道があるが、ラッサの法皇庁の旅行券を持ったものでなければだめだということで、この道も問題にならなかった。

二月の半ばまで大塔の精舎で空しく日を送っていたが、百年ほど前、乾隆年間にネパールのグルーカ族で三万尺のドーラギリ越えをして西蔵へ攻め入り、ラッサの近くまで迫ったという話を聞くと、なにかしきりに気持が惹かれた。そういう折、おなじ房にいた慧憧(ギャルツァン)というラマ僧が暇乞いにきた。ドーラギリの山裾にあるカンプゥタンという村へ帰るのだが、村の精舎に、蔵経の律部の写本があるから読みに来ないかと誘われたので、よろこんでついて行った。

カンプゥタンは一万八千尺ほどの高地の斜面に、牡蠣殻のようにしがみついた五十戸ばかりの寒村だった。村のすぐ端れまで氷河がさがり、風雪に洗われたドーラギリの尾根が眉に迫るように聳えている。住民は西蔵の北の高原から来てここに定着した純粋の西蔵人ばかりで、どの家の屋根にも、真言の文句を刷った白旗がヒラヒラし、話に聞いた西蔵風景にそっくりだった。