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しんさいゆうき

新西遊記

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页

青空文庫

あそこを越えるのだと慧憧がおしえた。この村がすでに一万六、七千尺の高地だから、ドーラギリの頂上は少なく見ても二万七、八千尺はあろう。そういう高いところを人が通れるとは、むしろふしぎなくらいだった。

一週間ほどすると、ドーラギリ越えをしてカンプゥタンにおりてくるものを見かけるようになった。仏教の隠れ信徒か、前科者か、あぶなっかしい身の上で、どのみち道関は通れぬてあいばかりである。ラッサから来たというのがいたので、それとなくようすを聞いてみると、ラッサから道を北にとり、チャンタンの高原を百日ばかり西へ、マナサロワール湖の岸をまわってそこから南へ下り、西蔵とネパールの国境にある山脈を越え、南へ二十日ばかり歩くとこのドーラギリにいきあたる。話をつづりあわせると、だいたいそんなことになる。警兵はいないのかとたずねると、警兵どころか、四十日にいちど遊牧民の天幕に出あえばいいほうで、とても人間の姿などは見られるわけのものではないという。

いずれはドーラギリを越えなくてはならない。理由をこじつけるのに難儀することだろうと苦にしていたが、このうえもない旅行の口実であって、公然と食糧の用意ができるのはありがたかった。