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しんさいゆうき

新西遊記

久生 十蘭

「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页

青空文庫

そこで明治卅三年も終った。

三月ほどその寺にいて、卅四年の三月十八日、最後の旅程にかかった。翌々日、ゲンバ・ラという急坂をのぼって峠の上に出た。眼の下に、四方、山にかこまれた平原がひらけ、離丘が島のように二つ浮いている。一つは富士山に似た美しい丘で、一つは頂上から中腹まで金の天蓋をのせた白堊の殿堂がひしめいている。大勢の探検家が、一と眼見ようと熱望しながら果さなかった、これがその聖都かと思うと、そこへ足を踏み入れるおのれの喜びよりも、その人達の遺憾を偲んで、思わず涙をこぼした。

坂を下ったところが府関の第一門。関門の前に酒を売る店がある。あるじは気のよさそうな赧ら顔の肥大漢で、保証をひきうけてくれたうえ、五人の連証まで探してくれた。そうした都合で第一関はわけなくすみ、そこで川を渡って、対岸の第二関、第三、第四、第五とその日のうちに通りぬけ、それをふしぎとも思わず、計られたとも知らずに、安泰な顔でラッサの市中へ入りこんだ。

市中の家は二階、三階の石造りになり、正面に石灰を塗っているので、遠目にこそは美しいが、いったん市中へ入ると、町筋には糞尿が流れ、泥濘は膝を没するばかり。