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しんさいゆうき
新西遊記
久生 十蘭
「別冊文藝春秋 第十九号新春小説集」1950(昭和25)年12月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,654 字 · 52 页
智海は昭和十五年、七十二歳の春、続蔵を終って正続五千百二巻の写経を完了し、七月、ラッサの宝積院で枯れるように死んだ。日本を発つとき、「死ぬまでかかって」といったのは妄語ではなく、今生では父母兄弟師友に相見えないという請願の趣意も、それでつらぬいたことになる。
智海の入蔵は、ネパールの国境を越えたときラッサの法務局に通牒が行っていた。先年、密入国者にたいする刑統が変り、入国したものは、境外へ出さず、生涯、国内に監置することになった。ヤクから山羊、山羊から騾馬と、つぎつぎに生きた送状をつけてやった、西蔵人の腹黒いやりかたを、智海は知っていたろうか。智海の「西蔵記」には、本師釈迦牟尼仏の広大な法恩を古朴な筆致で述べているだけで、この点にはすこしも触れていないのである。