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たびだち

旅だち

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,059 字 · 24 页

青空文庫

別に独身主義というのではなく、ただ当分の間、気がすむまで、自由な空気を呼吸したかったのです。そういことが、敏子としては母に説明しにくいのでしたし、母には理解しにくいのでした。

そのもやもやしたものを突き破るように、敏子は言いました。

「洋子さんだって、わたしより年上だけれど、まだ独りでいらっしゃるわ。」

秋田洋子は、中山敏子の同郷の友人でありまして、郷里で女学校を了えると、東京に出て専門学校に学び、親戚の家に寄居して、ある出版社に勤めていました。眼玉のよく動く円い眼をしていまして、それが時によって、ひどく無邪気にも見え、自由奔放にも見えました。

敏子に結婚問題が持ち上ってる頃、秋田洋子は郷里に帰っていましたが、一度の便りもしなかったあと、出京するとふいに訪れて来ました。

敏子は飛び上るように喜んで、自室に迎え入れました。

まじまじと見合うお互の顔は、以前と少しの変りもありませんでした。それだけでもう、本当のお話は済んでしまったようでした。

敏子は世間話のような調子で、縁談のことを打ち明けました。それについての自分の態度を語りました。洋子はすべて賛成しました。