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りょかくきじけん

旅客機事件

大庭 武年

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,209 字 · 21 页

青空文庫

「あいつ余程今日はどうかしている」――池内操縦士は、その後姿を眺めてそう思ったが、彼の態度が何を意味しているか、勿論わかりはしなかった。

軈て出発、発動機は好調。池内、三枝、二名の機員に、操縦桿を握られたアメリカ・アトランテック社製の美しい旅客機は、その長細い胴体に二人の乗客――一人は商人風な小柄な男、一人はでっぷり肥った重役型の美髯家を、収容して、するすると飛行場の緑草の上を滑走し始めた。

「行ってらっしゃアい!」

見送りに出た飛行場員達が後で手を振る。エンジン・レバアをじりじりと引いて、頃を見計って全開だ。轟と凄まじい音と共に機体がスイと空に吸い上げられて、今迄太い細い線模様を描いていた地面が、忽ち野や山や人家が箱庭のように、小さく瞭り見える迄に収縮して了う。もう五百米の高空なのだ。

J部落、T河、O山、B湾――必要上自分達だけで作っている地上標識が、三分乃至五分おき位に、眼界に現れて眼界から消え去る。慣れた道だ、天候は良くないが、先ず今日は心配気はない空の旅。

「便所に行ってくるよ」

旅客機内の模様の説明図

三十分程経った所で、沈黙に終始していた三枝が、急に腰をもたげ乍ら、池内の耳元で大きく言って、自分の座席を跼み乍らはねのけた(大抵の人は知っていると思うが、旅客機内の模様は上掲の如きものである。