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はたもとたいくつおとこ

旗本退屈男

佐々木 味津三

佐々木味津三『旗本退屈男』。同一底本的分册已合并为一书。收入:旗本退屈男、旗本退屈男、旗本退屈男、旗本退屈男、旗本退屈男、旗本退屈男、旗本退屈男、旗本退屈男、旗本退屈男、旗本退屈男、旗本退屈男。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 240,656 字 · 478 页

青空文庫

しかし言うは言っても只言うだけの事で、悲しい事に民衆の声は、正義の叫びには相違ないが、いつも実力のこれに相伴わないのが遺憾です。芝居や講談ならばこういう時に、打ちかけ姿の太夫が降って湧いて、わちきの身体に傷をつけたら廓五町内が闇になるぞえ、という啖呵をちょッと切ると、ひとたまりもなく蜘蛛の子のように逃げ散ってしまうのが普通ですが、どうしたことか、今宵ばかりは、不都合なことにも花魁太夫達に、ひとりもお茶を引いているのがいないと見えて、そのお定まりの留め女すらも現れない生憎さでした。

と――、誰が言い出したものかその時群集の中から、残念そうに呟いた伝法な声がきこえました。

「畜生ッ、くやしいな! こういう時にこそ、長割下水のお殿様が来るといいのにな」

「違げえねえ違げえねえ。いつももう、お出ましの刻限だのにな」

誰の事かよく分らないが、この呟きで察すると、長割下水のお殿様なる者は、よッ程この五町街では異常な人気があるらしいのです。しかし騒ぎの方は、それらのざわめきが聞えるのか聞えないのか、なおしつこく四人の者がひたすらにわび入っている若衆髷をいじめつづけるのでした。