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ひびのうつり

日々の映り

宮本 百合子

「文芸集団」(名古屋帝国大学医学部学生の同人誌)、1939(昭和14)年第1号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,131 字 · 16 页

青空文庫

「友子さァーん、いるの?」

二階をいそいで降りて来る跫音がして、友子は、

「ほんとに、この家ったら!」

人間の子供でも叱るように真顔で云いながら、何かのこつでむずかしいその格子を内からあけた。

「こないだなんか、私が出て、あとしめたらもうはいれないんだもの」

そのあたしという言葉に、この家の主人でさえ、という自然と腹の立った力のこめかたがあって、ひろ子は思わず笑い出した。

「どっかのかえり?」

「ふむ」

生活のすべてがわかっている親密な友達にひろ子は、自分の云いかたにこだわらない気安さで、

「又例のヒステリーをおこしてね」

と云った。

「なかなかないでしょう?」

「ないわ。私のは家だけのことでないんだもの。考えてみれば、手に入りっこないものさがしているみたいなところもあるんだから」

「――まアお茶でもいれましょう」

友子の生活にも、或るときは時代の性格としてやはりひろ子と同じ事情があったこともある。

友子は縁側と座敷の境の柱に背をもたせて、薄い可愛い赤ちゃんマントを編んでいる。ひろ子は、くつろいだ座りかたで本箱のある床柱にもたれ、斜向いで二人はあれこれと喋った。話の末、友子も知っているある知人の女のひとの名を云って、ひろ子は、