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ひびのうつり

日々の映り

宮本 百合子

「文芸集団」(名古屋帝国大学医学部学生の同人誌)、1939(昭和14)年第1号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,131 字 · 16 页

青空文庫

それだのに、ひろ子はどうしても良人とは別に、一人で暮さなければならない事情におかれていて、その事情というのは、よしんばひろ子が重吉の住わせられている場処の高くて厚い塀の一重外で家を見つけようとも、そこに住むのはやはりひろ子一人でなければならないというものなのである。だから、ひろ子が家をさがす心持には、家そのものにつれて、暮しの形をさがす思いもこめられている。アパートなど考えるのもそこからのことなのであった。どうせ一人でくらすのであれば、いっそまるきり一人で、手つだいのものなどなしにやって行ける暮しはないだろうか。折々ひろ子は、重吉と一緒に暮したい心の激しさそのもので、毎日の形を一変する方法をそういう方向へさがし求めた。小さく燃えるものがあるような眼差しで、彼女は家を出るのであった。

バスを、自分のうちへかえる方角とは逆にのって、ひろ子は、友子のところへよった。たださえ立てつけの悪い古い家が、秋の大嵐ですっかり曲って、玄関の格子戸さえすらりとはあかなくなった。それだからこそこの一家族も熱心に家さがしをしているわけなのだが、門前の大きいアカシアだけが風情のある下でいくら格子をこじっても手におえないので、ひろ子は到頭声をあげた。