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ひはかがやけり

日は輝けり

宮本 百合子

「中央公論」1917(大正6)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页

青空文庫

子供時代の思い出――貧しい、父親のこわいなかで、矢のように早く通り過ぎてしまいはしたものの、さすがに今回想すれば、自然と涙の出るような追憶が、眺める一本の樹木、一条の小川からも湧き返って来るのである。

垣根の「うつぎ」の芽を摘んでは、胡桃あえにして食べたこと、川へ雑魚を掬いに行って、下駄や鍋を流してしまったこと。赤坊だった浩を守りしながら、つい遊びほうけて、どこへか置去りにしてしまったこと。お咲は目の前に、小さい小さい桃割――いつも根がつよくしまりすぎて、結いたてには、頭が下らないような気のしいしいした――に結って、黄色い着物を着せられていた自分が、泣きながらあっちの木の根から、こっちの木の根へと、紐ごと寝かせて置いたはずの浩を捜して歩いている姿が、まざまざと浮み上った。そして思いがけない、桜の木の下に、大きな目をあけて、拳をしゃぶっている浩を見つけたとき! 今でさえも、「ああ嬉しかったなあ!」と思うほど、恐らく一生の中に二度とはあるまい嬉しさであった。

孝之進は近所へ出かけ、おらくは裏の菜園の手入れをしている。家中が、物音一つしない静けさである。