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ひめくり
日めくり
壺井 栄
「群像」1963(昭和38)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,884 字 · 34 页
九百円ほどとられましたがね。ひろみ、ぷんぷんしてるんですよ」
「でも、よくお金があったわね」
「サラリーもらった、翌日でしたからね。でなかったら、そんな無茶しませんよ。でも、その翌日が大変でしたね。折悪しく日曜なんですね。二日酔で頭ががんがんしてるのを、無理やりたたき起されましてね。さ、出かけるのよ。昨日父ちゃんが無駄づかいしただけ、今日は私がつかうのよ。――デパートのお供ですよ。坊や抱かされて、六階から地下まで、ぐるぐるぐるぐると歩いて、三百円の鍋一つ買って帰ったんですよ。まいったな。これが女の無駄づかいか。哀れなもんだなって冷かしたら、彼女、にやにやしながら、はい! ってぼくの前に包み紙を投げてよこすんですよ。あけてみたら、二千円のセーターなんです」
山形はからからと笑い、
「ひろみにしちゃあ大出来でしょう」とうれしそうにつけ加えた。まだ子供も一人の時なら、彼がさかんにのんでいた頃である。その子供の生れる前には、ひろみをつれてバーめぐりをした話なども聞かされたことがある。酒がのめなくなった今、山形にとっては、こんなこともなつかしい思い出なのだろう。