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ひめくり

日めくり

壺井 栄

「群像」1963(昭和38)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,884 字 · 34 页

青空文庫

元子は食卓にならんで腰をかけながら、

「棒が一本あったとさって歌、しってる」

入院中にテレビで覚えた子供番組のコックさんの歌を歌うと、壮一はうれしげに、

「うん」とうなずく。

「棒が一本あったとさ」

元子がまた歌いながら一の字を書くと、壮一は小さな声で、

「葉っぱかな」

とつづけた。おやと、思いがけない収穫に元子はにこにこし、葉っぱに目玉をつけながら、

「葉っぱじゃないよ、かえるだよ」

「蛙じゃないよ、あひるだよ」

「六月六日に 雨ざあざあ ふってェ」

「三角じょうぎに ヒビいってェ」

「あんパン二つ 豆 三つウ」

「コッペパン二つ くださいな」

壮一の声はだんだん大きくなり、『あっというまにかわいいコックさん』ではあたりにひびきわたる大声になっていた。元子は壮一を膝にだき上げ、うしろからその小さな頬にわが頬をさしよせていって、

「ね、千咲ちゃんが、またおきるじゃないの」

「おきたって、い、い、よ」

抱かれているうれしさで、壮一はたけり立つ。元子はそれをぎゅっとだきしめ、

「だめよ。おとなしくしなくちゃ。ね、ね、ね。それより壮ちゃん、これから並川のおばあちゃんとこへ、泊りにいこうか」