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にっきちょう
日記帳
江戸川 乱歩
「写真報知」報知新聞社、1925(大正14)年3月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,863 字 · 14 页
中にも、恋を現わすには切手をななめにはればよいという所は、実は一度応用して見た事がある程で、決して忘れません。この方法は当時の青年男女の人気に投じて、随分流行したものです。しかしそんな古い時代の流行を、今の若い女が知っていようはずはありませんが、ちょうど雪枝さんと弟との文通が行われた時分に、宇野浩二の「二人の青木愛三郎」という小説が出て、その中にこの方法がくわしく書いてあったのです。当時私達の間に話題になった程ですから、弟も雪枝さんも、それをよく知っていたはずです。
では、弟はその方法を知っていながら、雪枝さんが三月も同じことを繰返して、遂には失望してしまうまでも、彼女の心持を悟ることが出来なかったのはどういう訳なのでしょう。その点は私にもわかりません。あるいは忘れてしまっていたのかも知れません。それともまた、切手のはり方などには気づかない程、のぼせ切ていたのかも知れません。いずれにしても、「失望」などと書いているからは、彼がそれに気づいていなかったことは確です。
それにしても、今の世にかくも古風な恋があるものでしょうか。若し私の推察が誤らぬとすれば、彼等はお互に恋しあっていながら、その恋を訴えあってさえいながら、しかし双方とも少しも相手の心を知らずに、一人は痛手を負うたままこの世を去り、一人は悲しい失恋