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めいあん

明暗

岡本 かの子

「むらさき」1937(昭和12)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,887 字 · 12 页

青空文庫

結婚前智子は二三度武蔵野の大地主であった三木雄の父の遺した田舎の邸宅へ三木雄を訪れ、其処に後見やら家政婦やらを兼ねていた中老の叔母からもよくもてなされ、その叔母さんの淡泊な性質はむしろ好んで来たのであるが、三木雄の教養に対する叔母さんの無頓着さには呆れて聊か腹立たしくさえ感じた。或時、叔母さんに智子はそれとなく詰った。すると叔母さんは例の男のような淡泊笑いをした。

「でも智さん、三木ちゃんには財産がどっさりあるものな、なまじっかお盲目さんの物識りになんかさせないでね、ぼんやり長生きさせたいからな。何にも三木ちゃんは知らなくっても千年万年喰べはぐれはないからね」

新婚旅行に三木雄と智子は熱海へ行った。三木雄はまだ白梅が白いということや、その時咲き盛っていた椿の花というものが、紅いのか黒いのかさえよくわきまえていなかったのに智子はまず驚いた。誰も、この暗黒の処女地へ足を踏み入れた者はなかったのである。この処女地もまた暗黒の世界をそのままに黙ってかたく外界との境界線を閉していたのかも知れなかった。

結婚は、異性の愛は、妻を得た歓喜は、一時に三木雄の知性までを、青春の熱情と共に目醒めさせたものであろうか。