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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
「おせい……」
鼻をすすりながらそれを横撫でにした。
「甲斐性のないおやじと下げすんでくれるなよ。俺も若い時に、なまじっかな楽な暮しをしたばかりに、この年になっての貧乏が、骨身にこたえるのだ。俺一人が楽をしようというではけっしてないがな、何しろ、今日日々の米にも困ってな……この四年あまりというもの、お前のしてきた苦労も、俺は胸の中でよっく察している。親というものは子にかけちゃ神様のように何んでも分る。お前は小さい時から素直な子だったが、素直であればあるほど……」
「お父さんそんなことをいうのはもうよしてください……」
おせいはほとんど憤りたいような悲哀に打たれて思わずこう叫んでしまった。
とにかく二三日中にはっきりした返事をすると約束しておせいはようやく父の宿を出た。
もうまったく日が暮れていた。ショールに眼から下をすっかり包んで、ややともすると足をさらおうとする雪の坂道を、つまさきに力を入れながらおせいはせっせと登っていった。港の方からは潮騒のような鈍い音が流れてきた。その間に汽船の警笛が、耳の底に沁みこむように聞こえている。空荷になった荷物橇が、大きな鈴を喉にぶらさげて毛の長い馬に引かれながら何台も何台もおせいのそばを通りぬけた。