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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

「知らねえよ」

と言いながら持ち合わせた箸で食卓を二度たたいた。

大食の純次はまだ喰いつづけていたし、父はまだ飯にしないので、母も箸を取らずにいたが、清逸は熱感があって座に堪えないので、軽く二杯だけむりに喰うと、父の自慢の蓬茶という香ばかり高くて味の悪い蓬の熱い浸液をすすりこんで中座した。

純次の部屋にあててある入口の側の独立した三畳の小屋にはいってほっとした。母がつづいてはいってきた。丸々と肥えた背の低い母は、清逸を見上げるようにして不恰好に帯を揺りあげながら、

「やっぱりよくないとみえるね」

と心配を顔に現わしていってくれた。

「寒さが増してくるとどうしてもよくないさ。けれどもそんなにひどいことはない。熱があるようだから先に寝かしてもらいます」

「そだそだ、それがいいことだ」

そして純次の床を部屋の上に、清逸の床を部屋の下にとったほど無智であるが、愛情の偏頗も手伝っていた。清逸が横になると、まめまめしく寝床をまわり歩いて、清逸の身体に添うて掛蒲団をぽんぽんと敲きつけてくれた。

清逸は一昨日ここに帰ってきてから割合によく眠ることができた。海岸のように断続して水音のするのはひどく清逸の心をいらだたせたが、昼となく夜となく変化なしに聞こえる川瀬の音は、清逸の神経を按摩するようだった。