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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

突然清逸の注意は母家の茶の間の方に牽き曲げられた。ばかげて声高な純次に譲らないほど父の声も高く尖っていた。言い争いの発端は判らない。

「中島を見ろ、四十五まであの男は木刀一本と褌一筋の足軽風情だったのを、函館にいる時分何に発心したか、島松にやってきて水田にかかったんだ。今じゃお前水田にかけては、北海道切っての生神様だ。何も学問ばかりが人間になる資格にはならないことだ」

「じゃ何んで兄さんにばっか学問をさせるんだ」

「だから言って聞かせているじゃないか。清逸が学問で行くなら、お前は実地の方で兄さんを見かえしてやるがいいんだ」

純次は黙ってしまった。父は少し落ち着いたらしく、半分は言い聞かすような、半分は独語をいうような調子になった。

「中島は水田をやっているうちに、北海道じゃ水が冷っこいから、実のりが遅くって霜に傷められるとそこに気がついたのだ。そこで田に水を落す前に溜を作っておいて、天日で暖める工夫をしたものだが、それが図にあたって、それだけのことであんな一代分限になり上ったのだ。人ってものは運賦天賦で何が……」

そのあとは声が落ち着いていくので、かすれかすれにしか聞こえなくなった。