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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

「危ない」と後ろからかばってくれたおぬいさんにも頓着せず、一生懸命に西山さんの方へと人ごみの中を泳いだ。

人波の上に頭だけは優に出そうな大きな西山さんがこっちに向いて近づいてきた。婆やはさればこそと思いながら寄っていって取りすがろうとするのを西山さんは見も返らずにどんどん三隅さんたちの方に行って、鳥打帽子を取った。そして大きな声でこう挨拶をした。

「じゃ行ってきます。万事ありがとうございました。さようなら。御大事に」

婆やはつくづく西山さんが恨めしくなった。あれほど長い間世話を焼かせておきながら、やはり若い娘の方によけい未練が残るとみえる。齢を取るというのは何んという情ないことだろう。……婆やは西山さんから顔を背けてしまった。

いきなり痛いほど婆やの左の肩を平手ではたくものがいた。それが西山さんだった。

「じゃ婆やいよいよお別れだ。寒くなるから体を大事にするんだ」

そういうわけだったのかと思うと婆やはありがたいほど嬉しくなって、西山さんの手を握って何んにもいわずにお辞儀をした。

「もういいから」

西山さんは手を振りきってどんどん列車の方に行く。婆やはそのすぐあとから楽々と跟いていくことができた。