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えいがざっかん(に)
映画雑感(Ⅱ)
寺田 寅彦
「帝国大学新聞」1933(昭和8)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,516 字 · 11 页
これは俳諧の場合と同様、ほとんど説明のできない種類の味である。たとえばアンナが窓から町をへだてた向こう側のジャンの窓をながめている。細めにあいた戸のすきから女の手が出る。アンナがそれに注目する。窓が明いてコンシェルジの伯母さんが現われる。アンナが「そうか」といったような顔をする。文字で書けばたったこれだけの事である。これだけならば米国でもドイツでも日本でもいつでもできる仕事であると思われるかもしれない。しかし実際はこの場合の巧拙を決定するものはほんのわずかな呼吸である。画面連続の時間的分配を少しでも誤れば効果は全然別のものになるであろうと思われる。要するに「かん」だけの問題である。
ナンセンスの中にのみほんとうの真実が存するという人がある。このナンセンス映画の中にもパリ人というものの真実な描写が多少の誇張の衣を着て現われているであろう。監督によって選ばれたいろいろの「タイプ」によって、それが表現されているのである。門番のおばさんでも、気の変な老紳士でも、メーゾン・レオンの亭主でも、悪漢とその手下でも、また町のオーケストラでも、やっぱり縦から見ても横から見てもパリの場末のそれらのタイプである。