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えいがざっかん(に)
映画雑感(Ⅱ)
寺田 寅彦
「帝国大学新聞」1933(昭和8)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,516 字 · 11 页
レオンの店をだされたアンナが町の花屋の屋台の花をぼんやりながめる。花屋のおばさんが花束をさしだす。我れに帰って歩きだす。そういう些細な場面にもやはり些細の真実の描写がある。
気の変な老紳士は観客を笑わせる。踊り場でピストルをひねくり回し、それを取り上げられて後にまた第二のピストルをかくしに探るところなどは巧みに観客を掌上に翻弄しているが、ここにも見方によればかなりに忠実な真実の描写があり解剖がありデモンストラチオンがある。やはり一つのおもしろいエキスペリメントを行なって見せているのである。
最後の場面で、花売りの手車と自動車とが先刻衝突したままの位置で人けのない町のまん中に、降りしきる驟雨にぬれている。あの光景には実に言葉で言えない多くの内容がある。これもその前の弥次のけんかと見物の群集とがなかったら、おそらくなんの意味もないただの写真としか見えないであろう。やはりフランス人には俳諧がある。
一編の最後に光の消えたスクリーンの暗やみの中から響く、甘い美しい音楽は、なんとなく「新内の流し」とでもいったような、パリの場末の宵やみを思わせるものである。