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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

山本周五郎『春いくたび』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春いくたび、だんまり伝九、伝四郎兄妹、峠の手毬唄、初午試合討ち、梟谷物語、武道宵節句。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 页

青空文庫

火薬も弾も驚くほどたくさんなかずだった。

「いよいよ大決戦がはじまるそうだ」

「この弾薬で大村勢をひとうちにせめやぶるのだ、みごとな戦がはじまるぞ」

「赤沢軍の鉄砲陣は天下無敵だからな」

そんなはなし声が耳についた。

すっかり運びこむのにはいく日かかるだろう、ちょうど三日目の日暮れのことであった。人夫たちがべんとうをつかっているすきをうかがって、若菜はすばやく本営の方へしのび出ていった。

かねて兄のいる陣屋はきいてあったのだけれど、いざさがすとなるとそうたやすくはわからなかった、そのうちにすっかり暮れて夜になった。戦のなかのことでむろん篝火はたかない、時折そのあたりを松火を持った兵がゆききするほかは、どちらへ向いても壁のような闇でふさがれている。

――どうしよう。

途方にくれてたちどまった時、すぐかたわらにある小屋のなかから、ききおぼえのある声がもれてくるのに気づいた。

――お兄さまだ!

すぐにそうわかった。

あらけずりの板をうちつけただけの羽目へ、そっと耳をあててきくと、いましも声高に話していた二、三人の者が外へ出てくるらしい。

若菜はぴたっと身をかたよせた。