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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

山本周五郎『春いくたび』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春いくたび、だんまり伝九、伝四郎兄妹、峠の手毬唄、初午試合討ち、梟谷物語、武道宵節句。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 页

青空文庫

どちらでも高いほうへお売りいたしますと、帰ってきたらその晩に火事だ」

「ざまあみろ、大欲は無欲だ」

「肝腎の先生は亡くなる、焼跡を捜しても鍔は出ず、元も子もすっから勘左衛門、今思っても惜しくってならねえ」

「こっちゃあ可笑くって大笑いだ」

無駄話をしながら道場の前まできた。

「おめえここで待っていねえ」と安吉を表へ残しておいて、兵馬はずいとはいっていった。

門人に稽古をつけていた甲子雄は、兵馬がきたと聞くと眉をひそめたが、断るわけにもいかず客間へ通し、稽古の区切をつけて、衣服を改めて会いに出た。――兵馬は客間の真中へごろりと横になったまま、

「やあ、先日は失礼」

「――拙者こそ」甲子雄は静かに座って、

「なにか用でもあってこられたのか」

「また金さ、二十両ばかり貸してもらいたいのだ」

「貸すのはいいが、――そうたびたびは困るな、多くの門人を抱えて、これだけの道場を経営すると、そういつも遊んでいる金はないものだ」

「いやならいいのさ、そのかわりこの道場へ転げこむばかりだ、昔のよしみでまさかそれもいかんとはいうまいが」

「いや貸さぬとはいわん、貸すことは貸すがたびたびは困るというのだ」