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チュンタオ
春桃
宮本 百合子
「近代文学」2、3号、1946(昭和21)年2、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,868 字 · 22 页
バルザックの「幻滅」は十九世紀において、ヨーロッパに出版業が企業として擡頭し始めた時代に、作者たちが、どんなにその営利業の本性をむき出した奸策と闘い、打算に抵抗し、頑強に作家として闘わなければならなかったかということを、暑くるしいほどに描き出している。
芥川龍之介が馬琴を描いた作品の中には、版元が、為永春水と馬琴とを張り合わせようとする苦々しさが、馬琴の感想として語られている。淡く、語られている。
バルザックの小説を読むと、ヨーロッパの近代文学の作家たちはあくのつよい近代出版業者たちと日夜もみ合いながら、上向する社会全般の経済関係の中で、互に勁くなって来ているように思える。文学者の力量は文学者として十分生活上の経済的基盤を与えるし、そのことは作家の思想性をも確立させ、強大な出版企業に対抗するだけの社会性を身にそなえたものとして来ているかと思える。
日本の作家の事情は、少くともこれまでは、中途半端であった。一定の文学的力量は、比較的たやすく彼及び彼女たちを食わせるようになる。けれども、その食わせかたは、日本的水準で、謂わば、手から口へ、という状態からあまり遠くない。