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しゅんすいとさんば
春水と三馬
桑木 厳翼
「図書」岩波書店、1939(昭和14)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,059 字 · 9 页
私は此書物をただ先考遺愛の書というような意味で保存して居たが、其後斯道の専門家たる新村出博士の研究によって、現在他には林若樹氏と新村氏との所蔵のみが世に知られて居るということを学んだが、此両大家に伍するを得たことは私の窃に喜ぶ所であり、然も之を先人に伝え得ぬことを憾みとする情に堪えない。
此の如く此イソップ翻案は歴史的興味を喚起するに足るものであるが、ただ此に聊か奇異の点というべきことは其が「天保十五年辰の新板」となって居ることである。春水は天保十四年に歿し、而して天保は又十四年で終って居る。即ち天保十五年は改元して弘化元年となって居るから、此に大なる疑問が存する訳である。此点に就て既に新村氏の考証があったと思うが、今確実に記憶して居ない。暫く私の素人的臆測を施せば、書肆は既に之を天保十四年に準備して翌年の新板として世に出そうとしたのが、作者も歿し年号も改った、というような事情ではなかったろうか。今日雑誌などの新年号が既に十二月の中旬に表れるのを見れば、此の如き臆測を容れる余地が無いとも思われない。現に此書の末尾には春水事長次郎と実名が出て居るから、二代目春水などの作と見ることは出来ない訳である。