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しゅんもう

春盲

豊島 与志雄

「人間」1951(昭和26)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,296 字 · 17 页

青空文庫

先日まで、そこに紫色の斑点が二つあったのだ。それを見つけた時、山田はいやな気持ちになった。紫斑病という言葉を聞きかじっていたので、斑点を仔細に調べ、それから腕や腿をめくって眺め、風呂にはいる時にも体のあちこちを眺めた。どこにも紫色の斑点はなかった。ただ手首に二つだけ。物にぶっつけた記憶もなかったし、虫に刺された覚えもなかった。

そして美津子に逢った時、彼女はいきなり彼の手首を見た。

「あ、御免なさい。」

山田には何のことか分らなかったが、言われてみて思い出した。

美津子と酒を飲んでいて、もうだいぶ酔っ払ってた時のことだ。小母さんの娘の正子が、動物づくし、魚づくし、昆虫づくしなど、きれいな絵本を持って来て見せた。

「おばちゃんに買ってもらったの。」

おばちゃんとは美津子のことだ。

科学的にも正確らしいそれらの絵本を、山田は正子と一緒に楽しく眺めた。たどたどしい読書に耽ってる正子よりも、きれいな絵本に見入ってる正子の方が、清らかで美しかった。その絵本を買ってやったのは美津子だ。正子の額が月光を浴びたように澄んでいた。山田は絵本を近々と覗くふりをして、彼女の方に顔を寄せ、いきなりその頭を抱いて、額にキスしてやった。