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ひるのはなび
昼の花火
山川 方夫
「三田文学 第四七三巻第一号」三田文学会、1953(昭和28)年3月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,030 字 · 15 页
そのようにして、僕はこの女への愛を、この女との季節を、完成させることしかできぬだろう。
女は、きっと良い妻になるだろう。良い母になるだろう。――でも、それは僕の幸福と同じではないか。手ひとつ握らず、唇ひとつ重ねず、身をはなしたまま彼女といっしょに時をすごしている幸福。僕は、彼女の中でそんな一つの季節を生き、そして僕の愛は、二人の距離を蹂躪し破壊するそれとは性質が異るのだから。
彼はそう思った。これは遁辞だろうか。彼は女の横顔を強くみつめた。
「……おめでとう」
低く、彼はいった。
グラウンドに止っていた女の眸が動いた。それが彼に帰ったとき、女はもう、ふだんの表情で笑っていた。
「今度、いつ帰省なさるの」
「夏休みになったら、すぐ」
「そう。……じゃ、川開きには、もう行けないわね」
女は、前髪にのせた手巾を下ろし、二つに折る。白い指先きが、丹念に、いくども折り直しながら手巾を小さく畳んでゆく。彼は、ふと仔細に、それを眺めていた。
「……今年もあるでしょうね。花火大会」
ぼんやりと、彼は女の声を聞いた。金髪の少女のことを想った。
たしかに、花火はあの金髪の少女の記憶にのこったろう。