轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

ばんか

晩夏

堀 辰雄

「婦人公論」1940(昭和15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,249 字 · 27 页

青空文庫

それ以上どうにも私達にはしようがないので、そのまま坂を下りはじめながら、もう一度ふり返って見ると、おじいさんはそこに屈んで何かしきりにごそごそやり出している。其処に誰かの穿き棄てていったらしい草鞋を拾って、それを自分のぼろぼろになったのと穿き換えているのである。浮浪者でもなさそうだが、何処か近在へ働きにいった帰りにしては様子が変だ。

「何者だろうね?」

「可哀そうのようだわ」

「でも、おれにはああいうのはやり切れない。何んとかもう少しならないのかなあ」

私はそう口では云いさしながら、ふいとドロステ・ヒュルスホオフの物語に出てくる、運命の圧力のために理性の勝った女からだんだん愚かな老人に変ってゆく母親のマルガレエテの事を思い出した。

湖岸の船宿にちょっと立寄って、声をかけたが返事がないので、どのみち駄目そうだとおもって、帰ろうとしかけると、漸っと出てきた赤ん坊を負ったお上さんらしいのに呼び戻された。モオタア船を出して貰えまいかと云うと、これもしばらく何か怪訝そうに私達を見つめていたが、――どうもそれはこのへんの村人達の困ったようなときの表情なのか知らん? ――やがて私達に言うのには、ゆうべ向うの岸の村で婚礼があって、あるじはそれに招ばれて、モオタア船に乗って出掛けたまま、いまだに戻らないのだそうだった。