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くらがりのおとまつ

暗がりの乙松

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1936(昭和11)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,992 字 · 25 页

青空文庫

七

――胴巻を、相擁して泣いている夫婦の前へ、ぽんと投出す、

「お二人さん」

と声をかけた。

七

突然声をかけられて、びっくり振返ると見馴れぬ若者が立っている――しかも、眼の前へ投出された胴巻、嘉兵衛は、

「――あっ!」

と仰天した。

「どうか勘弁しておくんなさい」

三次は縁先へ手をついた、「あっしゃあ野火の三次という盗人でござんす、こんな事情があるとも知らず、大事なお金を盗みましたが、いまあそこの杉林の中で仔細のお話を伺い、あっしゃあ生れて初めて眼が覚めました、ただ今限りぷっつり悪事から足を洗います、きっと真人間になりますからどうか勘弁しておくんなさい――中のお金にゃ鐚一文手はつけてござんせん、どうかお納めなすっておくんなさい」

嘉兵衛は聞く心もそぞろに、顫えながら胴巻を解いて見たが、転げ出た金包を見るなり、狂ったように躍上って、

「おお戻った、戻った、金が」

と歓喜の叫びをあげた、「二百両、手つかず戻った、お秀、お稲、金が戻った、金が戻ったぞ、もうこれで……」

わっと、燃上るような親娘の狂喜を、涙の滲み出る眼で見やった三次は、――手早く懐中から財布を取出すと、