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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
「ジョージ……さんは貴女に、この室を飾るわけを話しませんでしたでしょか」
「はい。申しました」
「何のためにですか」
「嬢次様は今日の夕方にきっと貴方がここへお出でになるに違いないと云われました」
ストーン氏は女の言葉の意味を考えるように、暫く沈黙していたが、やがて静かに声を落して云った。
「その通りです」
女もストーン氏の真似をするように、何か考えているらしかったが、やがて独言のように言葉をつづけた。
「……ですけども夕方から横浜からお出でになるのですから六時か七時頃になるでしょう。ですから九時まで四時間の時間を取っておけば大丈夫と嬢次様は云われました」
「その四時間は何をなさるためです」
「貴方を欺すためです」
「え……何ですか……」
「貴方をお欺し申すのでございます。妾はこうして米国暗黒公使、J・I・Cの団長ウルスター・ゴンクール氏をお欺し申しました」
……表情が粉砕された……と形容すべきはこの時のウルスター・ゴンクール氏であろう。眼の前に火薬庫が破裂したかのように、思わず両手を顔に当てて丸卓子の前に仰け反った。眼にも止まらぬ早さで椅子を蹴飛ばして立ち上ると同時に、腰のポケットから真黒な拳銃を掴み出して、女の眉間に狙いを附けながら距離を取るために二歩ばかり後に退った。