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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
以上の恐怖に襲われた姿である。
彼はやがて不意にぶるぶると全身を顫わして後退りしたが又、卓子に両手をかけて女を見入った。女に近づこうとして又立ち竦んだ。
暫くして彼は又、突然に、思い出したように飛び上った。両足を踏みはだけて床の上に落した。そろそろと手を伸ばして卓子の上の灰色の封筒を取って、素早く握り込んで直ぐに女を見た。眼にも止まらぬ早さで名刺を取った。床に落ちたピストルを拾って又、女を見た。帽子と外套を探すらしく頭を押えながら、猫のように素早く室の中を見まわした。そうして室の中に、そんなものがない事がわかると、老人のように腰を屈めたまま、又も、キット女の横頬を見詰めながらじりじりと後退りをした。うしろ向きに右手の扉のノッブに手をかけてそろそろと開いた。そのままくるりと向き直ると、疾風のように外へ飛び出そうとした。
……が……彼はそのままぴったりと石のように凝固してしまった。眼の球を破裂する程剥き出し、口を裂ける程引き開き、両の拳を赤ん坊のように握り締め、膝頭をX形に密着け合わせたまま、床から生えた木乃伊の姿に変ってしまった。そうして一心に、眼の前の入口の暗の中から浮き出している真白い顔と、真黒い着物を凝視した。