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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
これはほんの参考のために過ぎないのですが」
丁度扉に手をかけていた私は、そのまま振り返った。こんな温柔しい検事が一番苦手だと思いながら……。
「何ですか」
「貴方はどうしてもこの屍体を他殺とお認めになるのですか」
そう云う熱海氏の静かな音調には、ほかの生意気な検事連中にない透徹した真剣さがあった。私は私の自信を根柢から脅かされたような気がして思わず熱海氏の方に向き直った。
「……無論です。犯人が居るから止むを得ません」
「その婦人は果して犯人でしょうか」
「無論です。挙動が証明しております。……のみならず一度閉まっていた扉がどうして開いたのでしょう」
「合鍵はこのホテルに別なのがあります」
検事の言葉がだんだん鋭くなって来た。それと反対に私は落ち着いて来た。
「それは支配人が自分で金庫の中に保管しておりますので特別の場合しか出しませぬ」
「……しかし……私が最初にこの室に這入った時には、絨毯の上には紳士の足跡と、ボーイのと、支配人の靴痕しかなかったようですが……支配人もボーイも承認しておりますので、それ以外に靴の痕らしいものはなかったのですが……」
「絨毯の毛は時間が経つと独りでに起き上るものです。