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しょきかん

書記官

川上 眉山

「太陽」1895(明治28)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,182 字 · 36 页

青空文庫

書記官と聞きたる綱雄は、浮世の波に漂わさるるこのあわれなる奴と見下し、去年哲学の業を卒えたる学士と聞きたる辰弥は、迂遠極まる空理の中に一生を葬る馬鹿者かとひそかに冷笑う。善平はさらに罪もなげに、定めてともに尊敬し合いたることと、独りほくほく打ち喜びぬ。早くお土産を見せて下さいな。と甘えるごとく光代はいう。

ここでは落ちついて談話も出来ぬ。宿へ帰って一献酌もうではありませぬか。と言い出づる善平。最も妙ですな。と辰弥は言下に答えぬ。綱雄さあ行こうではないか。と善平は振り向きぬ。綱雄は冷々として、はい、参りましょう。

心々に四人は歩み出しぬ。私は先へ行ってお土産を、と手折りたる野の花を投げ捨てて、光代は子供らしく駈け出しぬ。裾はほらほら、雪は紅を追えり。お帰り遊ばせと梅屋の声々。

四

あくまで無礼な、人を人とも思わぬかの東条という奴、と酔醒めの水を一息に仰飲って、辰弥は独りわが部屋に、眼を光らして一方を睨みつつ、全体おれを何と思っているのだ。口でこそそれとは言わんが、明らかにおれを凌辱した。おのれ見ろ。見事おれの手だまに取って、こん粉微塵に打ち砕いてくれるぞ。