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つきとてぶくろ
月と手袋
江戸川 乱歩
「オール讀物」文藝春秋新社、1955(昭和30)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,541 字 · 80 页
彼はボール紙を左手に鋏を右手にもって落語家の「紙切り」の仕草よろしく、出鱈目の口三味線で拍子をとりながら、ボール紙を五本の指のある手の形に切り抜いていった。
克彦の背中をゾーッと冷たいものが走った。酔いもさめて、急に頭がズキンズキンと痛み出した。あけみはほんとうに幽霊でも見たような顔をしていた。目が大きくなって、可愛らしい口がポカンとあいていた。
「ハイッ、まずこのような奇妙キテレツなる形に切りとりましてございます。さて、持ちだしましたる一つの手袋……」
彼はポケットから、交通巡査のはめるような軍手に似た手袋の片方をとりだし、それを今切りとったボール紙の五本の指にはめていった。
忽ち白い人間の手になった。彼はボール紙の端を持って手袋を自分の顔の前で、いろいろに動かして見せた。それが、まるで、うしろから別人の手が出ているように見えるのだ。
ある瞬間には、事件の夜、あけみがやったのと全く同じ形になった。もう見てはいられなかった。あけみは悲鳴をあげないのがやっとだった。西洋の女のように気を失うことはなかったが、でも、失神と紙一と重の状態にあった。克彦はもう目をつぶるより仕方がなかった。