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あさやけ

朝やけ

豊島 与志雄

「光」1947(昭和22)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,795 字 · 24 页

青空文庫

」

「占いに出たんだもの。七時に夢をみたら、どんな夢だか、あたしに話してね。ちょっと気になることがあるのよ。」

彼はスぺードの7を手に持ったまま、睫毛の長い黒ずんだ眼で、彼女の顔をじっと眺めた。彼女は笑みを含んでその視線を受け留め、彼のグラスにウイスキーをついだ。

「さあ、占いの一杯よ。」

彼は一息にそれを干して立ち上った。おれに一礼した。

「どうぞ、ごゆっくり。お先に失礼します。」

一人になってから、おれは急に癇癪が起りそうで、歩き廻った。飲みなおしに、日本酒の熱燗を頼んだ。もう湯はさめきっていた。ぐずぐずしてると、階下の表口ばかりでなく裏口も閉めきられて、厄介なことになるかも知れなかった。

「いいさ。夜明しで飲むよ。」

「じゃあ、あたしもつきあうわ。」

二人とも酔ってたけれど、そんなことになったのは、中野の幻影が残ってたせいもある。その幻影をそのまま置き去りには出来なかったのだ。

酒場の奥は六畳の日本室だ。置床と押入があって、雨戸に硝子戸にカーテンと、わりによく出来ている。そこに、小机、用箪笥、鏡台、食卓、火鉢、其他一通りの器具が、ごっちゃに雑居している。