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あさめし

朝飯

島崎 藤村

「芸苑」1906(明治39)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,926 字 · 6 页

青空文庫

」

こう言い乍ら、自分は十銭銀貨一つ取出して、それを男の前に置いて、

「僕の家ばかりじゃない、何処の家へ行っても左様だろうと思うんだ。ただ呉れろと言われて快く出すものは無い。是から君が東京迄も行こうというのに、そんな方法で旅が出来るものか。だからさ、それを僕が君に忠告してやる。何か為て、働いて、それから頼むという気を起したらば奈何かね。」

「はい。」と、男は額に手を宛てた。

「こんなことを言ったら、妙な人だと君は思うかも知れないが――」と自分は学生生活もしたらしい男の手を眺めて、「僕も君等の時代には、随分困ったことがある――そりゃあもう、辛い目に出遇ったことがある。丁度君が今日の境遇を僕も通り越して来たものさ。さもなければ、君、誰がこんな忠告なぞするものか、実際君の苦しい有様を見ると、僕は大に同情を寄せる。まあ僕は哭きたいような気が起る。真実に苦しんで見たものでなければ、苦しんで居る人の心地は解らないからね。そこだ。もし君が僕の言うことを聞く気があるなら、一つ働いて通る量見になりたまえ。何か君は出来ることがあるだろう――まあ、歌を唄うとか、御経を唱げるとか、または尺八を吹くとかサ。