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きのうえとしたのはなし

木の上と下の話

小川 未明

「台湾日日新報 夕刊」1940(昭和15)年5月7、8日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,558 字 · 8 页

青空文庫

「さようなら。」

「さようなら。」

木の上では、母すずめと子すずめが、じっとそのようすを見守っていました。

年とったねこは、しいの木の下を通るときに、木の上を見上げながら立ち止まりました。二羽のすずめは、自分たちを見たのかと、びっくりしました。

「おや、まだ私たちをねらうのだろうか?」

「逃げましょうか、お母さん。」

「いいえ、じっとしておいで。」

ねこの目には、もう獲物の影などうつりませんでした。ただ、その木立がなつかしかったのです。

「よくこの木にも登ったものだ。あのいちばん高い頂まで、かけ上がるのも平気だった。」

ねこは、さも昔のことを思い出したように、木の周囲をぐるりと、熱のためにふらふらする足つきで、体をすりつけながらまわりました。

「ああ、この木ともお別れだ。」

ねこはしいの木に別れを告げるために、ここまできたのでした。そして、もう思い残すことがないというふうに、とぼとぼとわき見もせず、あちらへ消えてしまいました。

チュン、チュンと、このとき、子すずめが鳴き声をたてると、母すずめは、しかりました。

「おとなしくしておいで。私たちはみみずにたかったありのようなまねをしてはいけません。