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きそおんたけのはなし

木曾御岳の話

木暮 理太郎

「日本山岳会会報」1933(昭和8)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,366 字 · 15 页

青空文庫

この附近までは駒草採りも稀にしか入り込まないと見えて、十も二十も花の咲いている大きな株があっちにもこっちにもありました。私も五つ六つ採集して紙に包み、小屋に帰ってから主人に見せたら、ヤア旦那、二両がとこ仕事をしましたネと言われて吃驚したのでした。ここまで来ると北の方の雲がいいあんばいに晴れて、いきなり鼻の先へ頭が小さくて恐ろしく根張りの大きい山が現われる。それが乗鞍でした。おまけに乗鞍の南の斜面には大きな残雪があった。御岳では二の池の西側に僅かしかなかったのですが、乗鞍には沢山雪が残っていたので、これは御岳より高い山ではないかと思って残念なような気がしたのでした。

更に後の方を見ると三つ穂の槍のような山が見える、支那人の所謂一柄三尖の槍に似ている。つまり槍と奥穂高と前穂高の三つが三叉の槍のように見えたのです。あれが小屋の主人から聞いた槍ヶ岳であろう。私はこの三尖が一個の槍ヶ岳だと思ったのです。穂高なんて名は知りもしなければ聞いたこともない。そのために穂高へ登りそこなったのでした。私は四方の山を見ている中にぼうとなってしまって、殆ど夢中で五の池から摩利支天、一の池の三十六童子を廻って小屋に帰り、其日の中に下山して宮ノ越に泊ったのですが、意識的に日本アルプスの山々を大観したのは此時が始めてでありました。