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みらいのてんさい
未来の天才
豊島 与志雄
「人間 第三卷七月號」人間社出版部、1921(大正10)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,630 字 · 38 页
きっと結んだ口元が如何にも厳格そうだったけれど、禿げ上った高い額の下から、切れの長い柔和な眼が覗いていた。その細い瞳が、ちらりと揶揄するように輝いた。私はそれを見て、俄に元気になった。
「はい、自信を持っています。」と私は答えた。
「お国はどちらです。」
また意外な問いが落ちかかった。
「秋田です。」
「お家は士族ですか。」
「はい。祖父が馬廻り役を勤めてたとか聞いたことがあります。」
「御両親は?」
「母は丈夫ですが、父は二年前に亡くなりました。」
「御兄弟は?」
私は変な気がしてきた。まるで身元調べを受けてるような調子だった。それが一通り済むと、三度意外な問いが落ちて来た。
「あなたは碁をやりますか。」
「ほんの少しきりやれません。」
老人は、「ほう」というような顔付をした。
私は益々変な気持ちになった。思いもつかない問いがぽつりぽつりと落ちて来て、それに簡単な答えを返してるうちに、心に薄いヴェールのようなものがふわりと掛ってきた。私は大胆になっていった。そしてこちらから、静子の半身像――勿論着物を着たままの――を書かせて貰いたいと頼んだ。それで傑作を仕上げてみるつもりだと云った。