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ほんぽうしょうぞうちょうこくぎほうのすいい
本邦肖像彫刻技法の推移
高村 光太郎
「道統 第四巻第十号」1941(昭和16)年11月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,058 字 · 10 页
全体として何処にも目立つようなところが無く地味で、しかも惻々として人に迫って来る力を感ずる。作者は凡手でない。斯ういう特質が斯くも十全に表現せられたのは、この作者が漆と布という彫刻の素材の精神をよく会得していたからである。あらかじめ泥沙でこの像を造り、それが乾いてから上に漆で布を貼り、幾度か乾かしてはまた布を貼りながら、多分竹箆のようなものを使って木屑で顔面の肉づけなり、衲衣の衣文なりを形づくってゆく方法であるから、塑像のように自由はきかず、木型や蝋型のように飛び離れた凹凸もむつかしく、言わば地肌に沿ってしっとりとフォルムをきめてゆくのである。その技法がこの肖像の表現に遺憾なく適確に行われている。これは芸術家の良知である。他の如何なる素材によっても表現し得ないものが此処に表現せられている。鑿で木を刻んだのではこの隅々の模糊とした味いは出ず、ましてブロンズではこのぽっかりしたやわらかさが出ない。彫刻と素材との関係をこれほど生かした作も珍らしいのである。素材の弱点短所を直ちにそのまま長所としてしまうのが秘訣であるようだ。彫刻に限らず、あらゆる芸術に於いてこれは真理であるようである。