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すぎがき

杉垣

宮本 百合子

「中央公論」1939(昭和14)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,051 字 · 30 页

青空文庫

二度目の今夜の話は、鴻造としたならば、荒仕事には向かないと云った慎一の言葉に沿うた提案というわけであったろう。その新興会社は満州に本社をおいて、北陸の或る都会にも支社をつくる計画があった。そこと東京との事業上の連絡、情報の仕事がある。重役直属で、それは慎一にどうかというのであった。慎一がそこにおさまれば、鴻造一個人としてばかりではない軍関係にとっての便宜でもあるらしい話ぶりであった。照子を寝かした峯子が嫂と奥へ行っている間にその話が出た。

「ところで、君、いくつになったんだっけ。もうそうなるかね。三十二三と云えばそろそろ真面目に将来の基礎をつくらなけりゃならん時代だね」

そこへ、すこし休んで髪なども結び、ぱっちりした顔つきになった峯子が果物の鉢をもって、

「何のお話?」

と出て来た。慎一は別に返事しないでいる。その様子と兄のそぶりを見くらべて、峯子はいかにもその家での末娘らしく、

「お兄さんたら!」

と父親のような鴻造を睨んだ。

「またどっかの鞄もちに売りこむ算段していらっしゃるんじゃないの? いやよ」

「ふん、それもまあいいさ」

峯子は気にするようにもう一遍、黙っている慎一の方へちょっと眼をやった。