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すぎこ
杉子
宮本 百合子
「新女苑」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,552 字 · 19 页
暫く口をつぐんでいて、やがてしんから残念そうに、
「どうして、あなたがたはそんなことをして下すったんでしょうね」
心からのその声音は、まじり気のない遺憾の思いで悲痛にみんなの胸に迫った。だけれども、誰も黙っている。どうしてそんなことをしたか。あのぼーとなるような時間に、それが分ってしたというひとがあっただろうか。第一、カンニングといういやな名のつくそのことだと知って、あんなに云わばおおっぴらにクラスじゅうがその空気に感染したのだったろうか。杉子は喉のつまるような苦しさを感じた。自分の心をたずねて、机に突伏した沢田美津子の顔や、紙の端に書いたその時のことや、教わったときの気持を思いかえしてみても、そこに今それがわるいこととして示されているような罪悪感は一つもつかめなかった。かくれて教わったという実感さえなくて、自習時間の時のような感じがある。誰もいい点を採ろうとして教えっこしたりしたのではなかったと思える。何だか自然わからないことをきき合った。
比企たちはそういうことはせず、それをカンニングと見て、学校もそれはそのように見ている。
そう見ることがすぐに立派な態度だと思えない気持と、カンニングをよくない行為だと認める心との間に相剋があって、杉子は一種異様な苦痛を感じた。