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すぎこ
杉子
宮本 百合子
「新女苑」1941(昭和16)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,552 字 · 19 页
自分できめた時刻になると、さあ、一時半! というような勢で立って支度して家を出たのであった。
ふっと速まりそうになる足どりを心附くような気持で杉子は帰って来た。玄関には母のふだん履きが置いてあるぎりだ。
「ただいまア」
杉子は、少しひっぱって甘えたいつもの声をかけながら、
「はい」
と手首にとおしたままの帛紗包を毬子の前へのばした。それが好物であるということも、お土産なことも知りぬいた様子で母は黙って帛紗づつみをぬきながら、
「準次さんいなすったかい?」
と、きいた。
「夕方はおかえりだって。――行ちゃんがね、このお煎餠には外米が入ってないんだよって云ってよ」
「この頃の子供はねえ。……麗子が、これジュンメンよって云うんだもの……種痘したのどうしたかしら、ついたって?」
「訊かなかった」
杉子は楽な横坐りで、母の手許を見ている。鑵を出して、丹念に煎餠をしまっている毬子は、
「そう、そう」
と、顔を鑵へ向けたなり、
「伊田さんが見えたよ」
「ふーん」
そういう返事が、母の云いようから誘い出された。やっぱり来たのだった。いつ頃来たのかしら。杉子は、自然につづく筈の母の話を待った。